2010年8月15日日曜日

この国の気になる言論統制-再販制批判のタブー

 どちらに転んでも日本の経済にも政治にもさして大きな影響はないし、もっと重要な時事問題や社会問題はいくらでもあるし、つまりどうでもいい話なのですが、前から気になっていた話を書きます。
みなさんは再販制という言葉をご存じでしょうか。メーカーが商品の価格を決めて、小売業者にその価格で販売することを強制する制度です。つまり小売業者が他店より安くその商品を販売できません。これは独占禁止法で禁じられているのですが、日本の新聞・出版業界では逆に再販制で販売することが、実質、義務づけられている状態なのです。
出版物の再販制が世の中のためになるかどうかの議論はさておいて、恐ろしいのは、日本の印刷物、つまり新聞、雑誌、書籍では再販制を批判できないということです。再販制の批判はタブー。こういう言論統制がこの国でなされている現実を、みなさんは知っていたでしょうか。
テレビやネットでは出版業界の再販制に対する批判はよく目にします。しかし新聞では必ず再販制の維持を訴えます。再販制のおかげで全国どこでも安く新聞が読める、といのがその主な理由です。
一方、雑誌や書籍でも再販制を賛美する意見はいくらでも掲載されていますが、批判的な意見はまず目にすることがありません。再販制がなくなると、良書を出している中小零細の出版社が書籍や雑誌を本屋に買いたたかれる。彼らを守るために再販制が必要だとのことです。
昔、私はこの業界にいたのですが、実質的にこの業界は取次大手のT社、N社が支配していました。彼らの既得権を守るために再販制は必要だったのです。中小の出版社はT社、N社と取引を断られたら死活問題ですので、再販制を批判する本や雑誌を出版できないのです。
 というふうにここまでT社、N社の悪口ばかり書きましたが、中小の出版社側も一方的に被害者かと言うと微妙なところです。彼らにしてみてばT社、N社との取引コードを持っていることがそうでないさらに小さい出版社に対して大いなる既得権なのです。
 私が批判したいのは、再販制そのものではなく、既成企業が既得権を守って参入障壁を作っていることでもありません。再販制の反対意見が印刷物で言えないという事実が、言論の自由を憲法で保証されているこの国でまかり通っているということ。このことにどうも寒気がしてならないのです。
 まあ他にもいろいろ探せば言論統制はあるのだし、目くじらたてるほどではないだろう、と言われればそれまでですが、言論統制は国の存続を左右するような政治、国体、外交の諸問題に対してなされるものであって、たかが出版業界という日本経済全体から見れば小さな市場の利害において、言論統制が起きているという事実がかえって気味が悪い。そう思えてならないのです。
 こうして私がネットで簡単に批判できること自体、言論統制とは大げさな、という声がみなさんから聞こえてきそうではありますが。

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