八代将軍吉宗の治世下、天下の大泥棒、日本左衛門が江戸を中心に諸国を荒らし回っていた。
この日本左衛門、実は浜島庄兵衛という人形浄瑠璃〈白波座〉の旅芸人(傀儡)だった。また日本左衛門一家の一味も〈白波座〉の面々だったのである。
本編は〈白波座〉が江戸・日本橋を出発し、表向きは人形浄瑠璃を興行しながら、東海道の宿場町を回り、京に至るまでを描いたオムニバス形式の物語である。
第一幕 日本橋 〈白波座〉が東海道沿いの道端で人形浄瑠璃の興行をしていると両替商〈沢村屋〉の主人喜平が今晩、自分の屋敷に来て芝居をすれば蔵屋敷に泊めてやると誘う。座長オセンノオバは二つ返事で了承する。
夜になると庄兵衛たちは〈沢村屋〉に盗みに入る。鎖釜の幸吉など店の用心棒たちと死闘の末、千両箱を盗み出す。用心棒と格闘しているときに行灯が倒れ、屋敷が火事になる。庄兵衛たちは目明かしに追われながら、日本橋川の伝馬船に乗り込み、江戸を後にする。
第二幕 平壌
庄兵衛はある日、一人で旗本・青木又衛門の屋敷に忍び込む。屋敷にある
高価な茶壷を盗むためである。ところが屋敷にはお京という女が夫の仇討ちのため忍び込んでおり、又衛門だちと戦っている。
庄兵衛の助太刀も加わりお京の仇討ちは成功し、庄兵衛は茶壷を盗む。一旦二人はそこで別れる。だが平塚の旅籠で二人は偶然再会し、男と女の関係になる。
一方、又右衛門が斬られ、茶壷が盗まれたことを尾張藩の忍者セブリが嗅ぎつける。この茶壷はもともと尾張藩主、徳川宗春が又右衛門に与え、その見返りに公金横領を企んだ経緯があった。この秘密を二人が知ったかもしれない。そこで宗春はセブリに二人を殺すよう命じる。
セブリは旅籠で庄兵衛に襲いかかり背後から首をしめるが菊之助か例の茶壷でセブリの頭を割り、窮地を救う。セブリは頭を抱えて逃げ出す。
かくしてお京は〈白波座〉に加わり、庄兵衛だちと旅をする。
第三幕 小田原
宗春とセブリはし小田原藩の家宝、顔真卿の書を盗み出し、しかも盗んだ賊が日本左衛門に見せかける工作を企む。
セブリの手下、ウエツフミが日本左衛門に化けて小田原城に侵入し、顔真卿の書を盗む。藩主、大久保忠興は城の門をすべて閉じ、ウエツフミを出られなくしてしまう。
実は小田原に人形浄瑠璃の興行に来ていた庄兵衛たちは人相書きから日本左衛門と疑われ、小田原城の土牢にすでに捕まっていたのである。ウエツフミ扮する日本左衛門が現れたことで庄兵衛たちの容疑は晴れて釈放され、お詫びとして忠興は馬を与える。
事情をすべて聞き、まだウエツフミが城内に潜伏していると推理した庄兵衛たちは、池の中にいたウエツフミを見つける。小田原城の天守閣の屋根に逃げたウエツフミを庄兵衛は追いかけ、屋根の上で格闘して倒す。庄兵衛はウエツフミの懐に顔真卿の書を見つけ、こっそり盗む。庄兵衛たちは小田原城を出る。
第四幕 箱根・Ξ畠
忠興は庄兵衛こそ本物の日本左衛門で、彼が顔真卿の書を最終的に手に入れたことに気づき、箱根の関所に厳戒体勢を命じる。日本左衛門にここを通過させないためである。庄兵衛たちは馬を使って突進し、関所破りを強行する。ちょうど関所の上方口では長崎奉行所の役人たちが一頭の象を連れてきていた。将軍吉宗にこの珍獣を献上するためである。庄兵衛たちの馬を見て興奮した象は暴れだし、関所内はパニックになる。このどさくさにまぎれ、庄兵衛たちは関所を越えるが、仲間の赤星が関所の役人に斬られ、お凛が背中に傷を追う。
庄兵衛が関所を突破したことを知ったセブリは手下でシャム双生児の少年忍者、ユマル・ソマルを刺客に送り込む。三島の木賃宿に着いた〈白波座〉は早速、人形浄瑠璃の興行に出かけるが、怪我をしたお凛と庄兵衛の二人が留守番する。そこをユマルーツマルが襲いかかる。庄兵衛の背後からユマル・ソマルが首を締めるとお凛は庄兵衛の銀太刀でこの少年忍者に斬りつける。血だらけのユマル・ソマルは千枚通しでお凛の胸を刺し、逃げる。
だがユマル・ソマルは逃げている途中、お凛は庄兵衛の膝の中でそれぞれ命を落とす。
第五幕 島田・金谷
島田で神通力を使う羽黒修験者、南郷力丸が〈白波座〉に入る。大井川を越え、金谷に着くと庄兵衛が一計を案じる。まず呉服屋〈松屋〉に客のふりをして庄兵衛と南郷が現れ、店の番頭に言いがかりをつけ、金を脅しとろうとする。すると菊之助たちが入ってきて庄兵衛と南郷を追い出す。すっかり店の主人、松村幸兵に気に入られた菊之助は他の〈白波座〉の面々とともに今夜は〈松屋〉に泊まることになる。
ところが幸兵と夕飯を食べ、話をしているうちに菊之助は幸兵が自分の実の父であることに気づく。昔、赤子の菊之助を幸兵が近所の神社に捨てたところオセンノオバが拾い、〈白波座〉で育てたのである。
居酒屋で夜になるまで時間を潰していた庄兵衛と南郷が〈松屋〉にやってくる。示し合わせでは屋敷に泊まった菊之助か金目のものを持ち出し、朝になる前にみんなでずらかる手はずになっていた。だが菊之助は何も盗まずに〈松屋〉を後にする。
第六幕 宮
〈白波座〉の人形からくり師、忠信利平が尾張で評判になり、宗春に名古屋城に呼ばれる。忠信はからくり人形を披露し、最後に等身大の男女兼用お契り人形、菊丸を見せ、宗春に献上する。実はこの菊丸は菊之助か人形に変装したものだった。倉庫に連れて行かれた菊之助か城内の大判小判を盗んでいる間、大凧に乗った庄兵衛とお京が天守閣の屋根から名古屋城に忍び込む。セブリをはじめ、城内の侍たちをやっつけた庄兵衛とお京は金を盗んだ菊之助を連れ、再び大凧で空を飛ぶ。最後に天守閣の金の鯱も盗み、凧にぶら下げる。大判小判は行李に入れ、凧に吊したが、行李に穴が開いていたので凧が空をとんでいる間、中のものがこぼれ落ちる。宮宿の町人たちは空から大判小判が降ってきたので大喜びする。
第七幕 京
江戸の大泥棒が日本左衛門なら上方の大泥棒は七福神盗賊だった。京に着いた庄兵衛たちの前に、ビシヤモンを頭とする七福神盗賊が現れる。明後日、薩摩藩の大名行列が三条大橋を通るが数千両の金を持ち歩いているはずなので、一緒に協力して強奪しようという話だった。庄兵衛は二つ返事で了承した。かくして二日後、大名行列を襲いかかった日本左衛門と七福神盗賊は金紋箱四合を盗み出した。
金紋箱四合のうち二合を庄兵衛たちがもらう約束だったがビシヤモンたちは一合だけ渡し、伝馬船で高野川を北上する。怒った南郷が伝馬船に近づくとビシヤモンは槍で南郷を殺す。庄兵衛たちは鉄砲を撃って伝馬船の船底に穴を開ける。ビシャモンと庄兵衛は川に飛び込む。水中で格闘の末、庄兵衛はビシヤモンを倒す。
〈白波座〉は京を立ち、今度はまた江戸に向かって東海道を歩いていく。オセンノオバはとうに亡くなった夫の三郎兵衛爺さんの夢を見、お凛、赤星、南郷ら死んだ仲間に思いを馳せ、涙する。
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