男は名刺を差し出した。
「ポプラ社編集部 景山太郎」と読める。
ヒロは受け取った名刺を弄びながら吐息をついた。
場末のファミレスは客も疎らだった。
三十分ほど前、ヒロはこの景山と名乗る男に命を救われたばかりだった。
ヒロは日本国中、知らぬ者はない人気イケメン俳優。彼が出演するテレビドラマはほとんど例外なく高視聴率をマークした。
ところがひょんなことから所属する芸能事務所の社長と喧嘩して事務所を解雇された。俳優生命を絶たれたヒロは絶望し、自宅近所の橋から川へ飛び降り自殺を試みた。
そこへたまたま通りかかった中年男がヒロを止めた。男はヒロの顔を見て、ヒロが有名な芸能人であることをすぐに見破った。
「命を粗末にするやつがあるか」男は怒鳴りながらヒロの腕を引っ張り、力ずくでヒロを近くのファミレスに連れてきた。
「ポプラ社って出版社でしたっけ?」ヒロは尋ねた。
景山は答えず、おもむろにバッグからノートPCを取り出すと電源を入れた。ウインドウズの画面が立ち上がる。
景山はディスプレイの中央の派手なアイコンを軽く叩く。タッチパネルなのだろう。ディスプレイには『KAGEROU』のロゴが浮かび上がる。
「ところで」景山が言った。「私と組まないか。うちが主催する小説の新人賞に君が応募して当選したことにする。人気俳優の君が書いた小説ということで、マスコミは大騒ぎするだろう。本を出版したらベストセラー間違いなしだ」
「そんなにうまくいくものですかねえ」
「勝算はある」
「ところで・・小説はゴーストライターを雇うんでしょうか」
「いや、君自身に書いてもらう」
「えっ?そんなの無理ですよ」
「大丈夫。そのかわり一つだけ条件がある。新人賞の賞金2千万円は全額受取を辞退してもらう。いや、正確には2千万円で君には『カゲロー』を買ってもらう」
「カゲロー?何ですか、それは」
景山はノートPCのディスプレイをヒロに向けた。
「これが自動小説作成システム、『カゲロー バージョン1.0』だ」
景山は『カゲロー バージョン1.0』について詳しく説明した。
景山は『カゲロー バージョン1.0』について詳しく説明した。
まずブログの文章をシステムに入力する。するとブログを書いた人の文章のくせ、つまり文体がPCにインプットされる。次にその文体で自動的に小説が生成される・・・。
「そんなのインチキじゃないですか。ぼくが小説を書いたんじゃない」
「違う。君自身が小説を書いたのと同じなんだ」
<続く>
根も歯も無い、物語書いてんの?本当の「かげろう」の方が面白いと思うよ。ww
返信削除