そもそもエイコーン・コンピュータがVLSIテクノロジーにASICマイコンの開発を依頼したのがすべての始まりだった。
このとき誕生したのが初代ARMマイコンだが、これがあまりにいい出来栄えだった。そこで、このマイコンだけで今後商売していけそうだと踏んだので、両社から技術者を出し合って、ARM社が設立される運びとなった。
初代社長にはモトローラの営業部長、ロビン・サクスビーをヘッドハンティングしたが、これはアップルつながりだろう。当時、マッキントシュのCPUはモトローラの68系やPowerPCを使っていた。
ちなみにこの前後、アップルは「ニュートン」というPDAをラインアップしていたが、誰も知らないだろう。iPod、iPod touch、iPhone、iPadで一世を風靡したアップルだが、昔はハズすこともあったのだ。やはりジョブズがいないとアップルはだめなのか。
いずれにせよ、アップルがARMの株を引き受けたのは「ニュートン」の次世代CPUを開発したいという思惑があったからだと思われる。
閑話休題、この当時、ARM社はマスコミに対し、売上を公表しなかたっが、あまり収益がなかったのだろう。おそらく当時はライセンス契約料が安かったのではないか。だがそれが当初の目論見通りだったのだ。ARM社の使命はARMのアーキテクチャを普及させることで、収益を上げることではなかった。そしてアーキテクチャが普及すれば、それ用のASICマイコンを外注で開発する需要が増える。そうしたら自分たちの出番になる。ASIC専業メーカーのVLSIテクノロジーはそう考えたのではないか。
だがその後、携帯電話市場の増大とともにARM社は大企業へ成長した。一方、VLSIテクノロジーはNXPに買収されて消滅してしまった。おそらく携帯電話メーカーの大多数は自前でASICマイコンぐらい開発できるので、あえてVLSIテクノロジーに発注しなかったのだろう。
ところでARM社創業当時、VLSIテクノロジーはあえて三番手の株主を選び、自分とARMの関係を目立たなくさせていた。これはなぜだろうか?
おそらく自分たちが携帯電話市場のCPUのシェアを狙っていることがあからさまになると、Windows PCでCPU市場を席巻したインテルと衝突する。これを恐れたのではないか。
当時、インテルは86互換でライバルのAMD社に対し、ライセンス問題で何度も訴訟を起こしていた。裁判では軒並みAMDが敗訴し、ライセンス料をインテルに支払っていた。
そもそもインテルとAMDとVLSIテクノロジーには共通項がある。もともとファアチャイルド(現存するファアチャイルドとは別会社)という半導体メーカーがあり、この会社が解散したとき、社員が三つのグループに分かれて新たに起業した。それがインテル、AMD、VLSIテクノロジーだった。
兄貴分のインテルとAMDが裁判沙汰で火花を散らしているときに、VLSIテクノロジーが自社ブランドでARMを市場に投入したらどうなるか。X86とARMはアーキテクチャが異なるので、まさかライセンス問題で訴えられることはないだろうが、それにしても業界最大手、インテルに睨まれるのはこわい。そこでベンチャー企業、ARM社という隠れ蓑を作り、携帯電話向けCPUのデファクトスタンダードを密かに狙っていたのではないか。以上が私の推理である。
それにしても、PCを制覇したX86と携帯電話を制覇したARMを設計したのが、もともとフェアチャイルドにいた同門のエンジニアというのはすごい。彼らから見れば、「”本物”のCPUを設計・開発できるのは世界で俺たちだけ」という自負があるのだろう。フリースケールのPowerPCもルネサスのSHマイコンも彼らに言わせれば、”お子様ランチ”なのかもしれない(おわり)。
2011年2月14日月曜日
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