2011年2月10日木曜日

RISC陰謀論 その2

 前述のようにRISCのもともとの定義は命令数を減らすことで処理スピードを上げるマイコンということだったが、ワークステーション・ベンダーたちの64ビットRISCは、確かにCISCのX86よりは命令数が少ないかもしれないが、バージョンアップする度に必然的に命令数が増えていく。だから命令数が少ないことだけをRISCの定義とするには限界が出てきた。
そこで生まれた新しいRISCの定義が制御部にハードワイヤード方式を採用したマイコンというものだった。ワークステーション・ベンダーたちの64ビットRISCは制御部の結線がハードウェア的に固定している。これがハードワイヤード方式だ。一方、X86の場合、制御部はマイクロプログラム方式と呼ばれ、流動的なソフトウェアになっている。
これはASICとFPGAの関係に似ている。ハードワイヤード方式の方が制御部の処理スピードは速く、消費電力も少ない。一方、マイクロプログラム方式の方が拡張性に優れ、機能を追加しやすく、バージョンアップを容易に行えるというメリットがある。
RISCとはハードワイヤード方式のマイコンを指し、RISCの処理スピードの速さと低消費電力はハードワイヤード方式によるもの、という解釈で一応落ち着いたかに見えた。

ところがここで現れたのが英国のARMである。現在ではARMは正式名称で何かの略称ではないが、創業当時はAdvanced RISC Machinesの略称ということになっていた。つまり社名および製品名にRISCを謳っているのである。ところがARMチップはマイクロプログラム方式のマイコンだった。
ARMが社員10数名程度のベンチャー企業だった当時、業界マスコミはARMがRISCの定義を理解してないのだと嘲笑していたが、嘲笑している間にARMが大ブレークした。
90年代終わりから携帯電話市場が急成長し、携帯電話のCPUの7割にARMアーキテクチャアが採用され、世界で一番普及したRISCがARMチップということになってしまった。こうなるとARMが間違っているのではなく、RISCの定義自体を変える必要が出てきた。
すなわち「ハードワイヤード方式でなく、マイクロプログラム方式のRISCもあり」ということになった。
ちなみにかつてX86のライバルだったモトローラ(現フリースケール)のPowerPCもマイクロプログラム方式のRISCチップだ。

ところでX86がCISCであってRISCでない以上、86互換チップも必然的にCISCであってRISCでないことになる。こういう不文律があった。しかしながらARMがRISCの定義を変えている間、平行して86互換の世界でもRISCという語が再定義されていた。
彗星のように現れたベンチャー企業、ネクスジェンが86互換RISCチップの新製品を発表し、業界マスコミを席巻した。と思ったらそれから間もなくネクスジェンはAMDに買収されて消滅した。
もともとネクスジェンは自社製品を売るのではなく会社自体を売るために起業した会社だったようだ。米国のベンチャー企業にはよくある話である。
ネクスジェン買収後、AMDはRISCであることを謳った86互換チップを精力的に開発している。
こうして86互換はRISCと呼んではいけないという不文律は崩壊した(続く)。

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