当たり前のことだが、工業製品は時代とともに進化する。
進化するのは製品だけではない。製品を設計したり、製造したりする生産技術もまた、製品自身とともに進化する。
19世紀は家内制手工業が主流だった。作る製品は特注品だった。
20世紀になると大量生産大量消費時代に突入し、量産によるコストダウンが実現した。
そして迎える21世紀。二つの世紀のイイトコドリを実現する方式、すなわち多品種少量生産にしてコストダウンも両立させた新たな生産技術が確立しようとしている。
それがパーソナルファブリケーションだ。
最も関連する業界は電気製品、次いで自動車だろう。
自作PCやホワイトボックスPCは、パーソナルファブリケーションという語ができる以前に、それを具現化した例と言える。
70年代のコンピュータは今日の電卓程度の処理能力にも関わらず、何億円もかかる代物だった。ところがAT互換機がオープンソース化し、構成部材を標準化して量産したため、10万円程度の予算と本棚を組み立てる手間暇で自作PCが素人にもベンチャー企業にも作れるようになった。
もともとパーソナルファブリケーションという語は、3DプリンタとCADソフトの高性能低価格化を指す場合が多い。
だがそれ以上に、エレクトロニクス分野では、システムLSIやIPコア、ソフトウェア・ライブラリなどの高性能低価格化に加え、システムメーカーと半導体メーカーの分離があり、要素技術としてパーソナルファブリケーションが着実に確立しつつある。
ファブレス、ファンドリ、EMS、OEM生産…。こうした業界用語からして、工場がなくてもメーカーになれるという発想は、エレクトロニクス関連分野が一番進んでいるのだろうか。
町の電気屋さんが特注やオリジナル商店ブランドで電気製品を販売。狭い部屋用の細長い規格外冷蔵庫などができるかもしれない。
またアマチュアがホームセンターに行って部材を買い、日曜大工感覚で炊飯器や掃除機を組み立ててしまうということもあるかもしれない。
ところで電気製品に当てはまることが、自動車業界にも当てはまる。
ドイツのカール・ベンツが発明した自動車は、1台ずつ特注で生産していた。このため価格は高く、一部の富裕層しか自動車を買えなかった。
ところがアメリカのヘンリー・フォードは、部材を量産化することで生産のコストダウンを実現。自動車は広く世に普及することとなる。
量産品の自動車は特注品と違い、普通の人が買える値段なのが魅力だが、ユーザーに仕様を押し付けるきらいがあった。
ところがここへきて、EV自動車をベンチャー企業やアマチュアでも作れる時代が到来した。
要はEV化によって自動車が"電気製品化"したからだ。
これまで大企業が自動車メーカーで、中小企業が下請けとなって自動車の部材を生産していた。
だがこれからはベンチャー企業が自動車メーカーとなり、その下請けとして工場を持つ大企業がEV向けに標準化したモーターやバッテリ、フレームを生産する時代になるかもしれない。
また秋葉原では自作PCパーツ屋の隣に自作自動車パーツ屋、自作バイクパーツ屋が並ぶかもしれない。
(続く)
0 件のコメント:
コメントを投稿