2018年6月10日日曜日

トロン陰謀論について

 さて、数年前、リチャード・コシミズ氏のブログに「トロン陰謀論」について情報を持っている人の意見を募集していました。
 日航機123便にトロン関係の技術者が搭乗していて、PC市場でのトロンの普及を阻止すべく、米国が無人機を衝突させて123便を墜落させたのでは、という仮説です。
 私自身、陰謀論に関する情報は何も持っていないので、そのときは回答できませんでしたが、とりあえず知っている情報だけをまとめて意見を述べてみようと思います。

 まず「トロン陰謀論」の結論からすると以下の通りです。

①トロンが国内市場または世界市場でPCの標準OSにならないよう、米国が政治的圧力をかけた?
②日航機123便墜落以降、結果的にトロンは衰退した?
③日航機123便にトロン関係の技術者が搭乗していた?

①はYES、②はNo、③はわかりません。これが私の回答です。


1. 米国の政治的圧力とトロン

 まず①についてですが、これは陰謀論でもなんでもなく、私が90年代初めに読んだ市販の本に書いてありました。それも政治や陰謀論の本ではなく、PC業界のビジネス書です。
 日米半導体協定のときに、米国商務省としてはユニックスをコンピュータの世界標準OSにしたいため、その対抗馬となる日本のトロンを普及させないよう政治的圧力をかけたとのこと。
 そのビジネス書には前書きか第一章にさりげなく簡潔にそう書いてあっただけで、それ以降はユニックスの技術的な特徴について解説していました。
 ここで注目すべきは米国政府はウインドウズでなくユニックスを標準OSと予想していたことです。
 当時、ユニックスはIBM社とサンマイクロシステムズ社の二大陣営に派閥が分かれており、いずれかのユニックスがコンピュータの標準OSになると誰もが考えていました。ところがマイクロソフト社がウインドウズNTを開発すると状況が一転、IBM社とサンマイクロシステムズ社は対立を解消しましたが、時すでに遅し。マイクロソフト社のウインドウズがOSのデファクトスタンダードになってしましました。
 私がここで主張したいのは、ITやエレクトロニクスのデファクトスタンダードは日本対米国といった国家間だけでなく、民間企業間の対立や、さらには官対民の確執もあるということです。


2. μITRONの活躍

 次に②ですが、トロンが世間で最も騒がれた時期はいつでしょうか。私の記憶では日航機墜落の数年後だったと思います。
 日航機墜落は1985年。その二年後に1987年だったと思いますが週刊朝日でトロン特集をやっていました。技術用語であるトロンが一般マスコミの週刊朝日に取り上げられたのです。私の記憶ではこのあたりが一般マスコミのトロンブームのピークです。
 一般マスコミのトロンブームは90年くらいにはすでに消滅していたと思います。しかし業界内のトロンの普及はこのあたりから始動します。

 実はトロンはもともと組み込みOSです(当時はリアルタイムOSという呼び方が一般的だったでしょうか)。
 それが当時の通産省(現在の経済産業省)の思惑で本来の組み込みOSをIトロンとし、ビジネス向けのBトロンや通信向けのCトロンなど、トロンの概念を無理やり拡張し、国産OSのトロンであらゆるジャンルを網羅しようとしたのです。
 Iトロン以外のトロンは時間がたつごとに自動消滅した感がありますが、肝心のIトロンは一般マスコミがトロンを報じなくなってから、組み込みマイコン市場で躍進したのです。
 
 μITRON2.0準拠という記述を私はいたるところで目にした気がします。
 国内メーカーのセットトップボックスをはじめ、32ビットマイコンのリアルタイムOSとしてトロンはシェアを広げました。
 90年代、トロンはリアルタイムOS分野では世界市場でPSOS、Wind riverに次いで三番目で15~20%前後、国内市場では80%のトップシェアでいわゆる内弁慶型でした。PCではウインドウズがガリバー型寡占でシェアを独占していますが、リアルタイムOS市場は小党分立で、上記ベスト3以降は、様々な無数のOSが群雄割拠している状態でした。
 トロンはハイエンドのTカーネル、ローエンドのトッパーズというふうに大別され、いずれも国内電機メーカーには積極的に採用されました。

ネットでは日航機123便にトロン関連技術者が17人乗っていたという記述を複数個所から目にします。私にはその真偽はわかりません。しかしながら、トロンの真の全盛期は日航機墜落から10年たった90年代だと言えることはまちがいありません。
 

3. 8ビット、16ビット向けトロンの開発を

 しかしながら組み込みリナックスの発展で、今日ではトロンは衰退しました。
 ここからは私個人の提案ですが、32ビットでなく、8ビットや16ビットのマイコン向けにトロンを改良するのはどうでしょうか。
 トッパーズは組み込みプログラマから見ればOSというより、C言語のライブラリです。
 スマホが普及し、32ビットARMが普及した昨今、組み込みOSもアンドロイドやiOSのようなPC向けOSに近いものであることが求められ、トロンは時代遅れになりました。
 しかしながら、8ビットや16ビットマイコンの用途はたくさんありますし、特に16ビットDSPは、32ビットARMと比べ、処理能力的に大きく負けているわけではありません。

 国産マイコンに軒並みトロンをポーティングし、国内中小零細メーカーが容易に製品を開発できるよう、支援するのはどうでしょうか。